「女の人は男の人より財産を持っていちゃダメなのよ」
小さな私に母がそう言ったことを今でも覚えている
母は大学を卒業した後、大手自動車会社勤務で貯めたお金を頭金にし29歳で不動産会社を立ち上げた。
経営者であった祖父の血なのか、商売の才があった母の会社はすぐに軌道にのり、母が設計した一軒家やマンションが何棟も建設され、30年以上経った今でもいくつか残っている。
しかし売り上げがうなぎのぼりだった会社設立3年目、母は父と籍を入れ、それと同時に会社と建設物の所有権を知人に譲った。
大家もやっていたので一軒でも所有しておけば家賃収入だって入ってきただろうに。
難しい言葉はわからなかったが母は父との結婚と引き換えに大金を手放したということは子供ながらに理解できた。
なんで?もったいないじゃないか。
幼い私がそういうと母は
「女の人は男の人より財産を持っていちゃダメなのよ。だって(男の人が)格好つかないじゃない?」
そう言った。
変なの。いいじゃん。女が沢山稼いで何が悪いんだ
物心ついた頃から結婚になんの夢も希望も抱いていなかった私は、生きるために必要なお金を簡単に手放した母の話を聞き、彼女は心底バカなことをしたなと思った。
それから10数年経った今、私は社会人になり、自分でお金を稼ぐ様になった。
現在有難いことに同い年の女性の倍近くの年収をもらっている。
お金が多くもらえることは嬉しいことだ。
大好きな旅行にも行けるし、美味しいものだって食べられる。
ただ最近自分がメキメキ稼いでいることに少し引け目を感じるようになってきた。
会ったばかりの異性に私の会社のことや職種の話をすると決まってお金の話になる。
その時の返しに迷うようになってきたからだ。
時に実際より低くこたえてみたり、自虐してみたりすることが多くなった。
私は自分が人より多く稼いでいることに誇りを持っているし、年収だって毎年上げていきたい。
でもこの先、例えば誰かに好意を抱いた時、相手の稼ぎを聞いて一喜一憂する日がくるのではないかと思うとうんざりする。
「女の人は男の人より財産を持っていちゃダメなのよ」
男女平等を謳う現代でその言葉はあまりに古臭く、埃かぶっている
でも、皆口にしないだけで実際のところはまだそうなのかもしれない。
その方が、うまくいくのかもしれない。